今年も近づいて来た大型連休。海外に旅行される方も多いことだろう。中には、スペインに旅するという方もおられるのではないだろうか。
ここバルセロナでも、すでに初夏に近い陽気の中、各国からの観光客が通りにあふれはじめた。それと連動して、日本人観光客がスリなどの被害に遭うことも多くなり、その対応で忙しくなるのよ、と、旅行代理店に勤める知人は嘆く。バルセロナが海外の中でとびぬけて危険な街だとは思わないが、日本人がプロのスリに狙われやすいのは確かだ。その理由は“隙があるから”ということが大きいと思われる。路上で目立つように地図を広げる、ブランドもののバッグを無防備に下げている、または、いかにも貴重品が入っていますよ風の目立つウエストポーチを着けている….などなど、見ていてヒヤヒヤする人が多い。さらに、電車やバスの中で寝ている人、観光の仕上げに訪れた深夜のタブラオ(フラメンコを見せるバル)で、舞台の最前列で居眠りをしている人….などは、駆け寄って揺り起こしたい衝動にかられる。危険だからということもあるが、それ以前に目立ちすぎるのだ。『外で眠る』ということ自体が。
スペイン人が心から驚き、眉をひそめる日本人の行動、それは何か。かなり上位にランクされるのが「公共の場で眠る」ということなのは間違いない。
あるスペイン人に「どうして日本人は、会議や授業で眠るの?」こう尋ねられたとき、相手を納得させられる答えが出なかった。苦しまぎれに「眠るのは誰の邪魔にもならないでしょう?」と言ってみたが、「会議や授業の内容がわからなかった人のために誰かが後でフォローしなければならないのだから、邪魔になっている!」と正論で言い返された。さらには、「友達や知り合いと一緒に電車に乗っているときにさえ眠るのはなぜ?信じられない!」と、くだんのスペイン人は青筋を立て、怒っているように言う。誰かといるのに眠るということは、相手をないがしろにしているということらしい。「うーん、私だってどこでも眠ることに対して賛成するわけではないけれど、私たちは他人が眠る事に対して寛容なのです。電車やバスなど、公共の場で眠る事は大きな恥ではありません。友達と一緒でも、相手が疲れていれば眠っても腹は立てない。もちろん、人の命を預かるような重要な仕事の途中で眠るのは、あってはならないことだけど」そう答えたが、まだまだ納得してはもらえない。
では、スペイン人は居眠りはしないのか? シエスタ(昼寝)の習慣で名高い国民だから、しょっちゅう眠っているようなイメージがあるかもしれないが、実際のところシエスタの時間に眠るのは今や少数派だ。それでいて、朝は普通の時間に起きて活動し、夜は仕事のあとも社交に駆け回る。ディナーは午後10時からで、ディナーが終わるのは日付が変わる頃。そのあとクラブやディスコに行き、帰ったら朝の5時….というスペイン式の夜遊びが一般的だ。だから、彼らは常に睡眠不足なのだという。それなのに、電車やバスで眠っている人を見た事がない。会議や授業でも眠らない。それは幼少時からの教育の成果だ、と彼らは言う。一歩、家の外に出れば、「そこは眠る場所ではないから」眠らないように厳しく躾けられてきた成果だというのだ(てゆうか、やっぱ基本的にタフだからでしょ、と私は思ってしまうのだが)。
さて、この「どこでも眠るのはなぜ?」発言は、私にいろいろなことを考えさせてくれた。隙あらばどこでも眠る理由が、日本人に公私を区別する意識が薄いから、ということでは決してないと思う。公共の場でしてはいけないことの概念、恥の概念が、スペイン人と違うだけなのだ。日本人は電車の中で平気で眠れても、衆目の中で抱き合ったりキスするなどの愛情表現をすることに抵抗があるし(世代によって違いもあるが)、ビーチで全裸になることは法的にもムリだ。また、日本人は普通、仕事中はお喋りをしないのが常識だが、スペイン人はおおいに喋る。特に、役所・郵便局からデパートまで、接客業の人びとが客そっちのけで同僚同士喋っているのにはいつも呆れる。もちろん、その間業務は遅れ、長い行列ができているのに知らぬ顔だ。居眠りするよりタチが悪いと思うのだが…。
自国民にとっての常識も、他国民にとっては非常識。海外で過ごすときは、周りの様子をうかがい見て、郷に入っては郷に従うのが無難だろう。でないと、知らぬ間に「躾が悪い人」という誤解をされてしまうこともあるのだから。
※ 写真はスペインの結婚披露宴の様子。披露宴は朝までオールナイトが基本。後半は全員ひたすら踊る。よちよち歩きの子どもも普通に参加している。筆者は途中で脱落しましたとさ……。







